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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)76号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。そこで、審決にこれを取り消すべき違法の点があるかどうかについて検討する。

二 原告は、審決が本願発明と第一引用例記載のものとの間の相違点を看過したと主張し、その前提として、本願発明においては、金属スラリーによつて誘電性シートを接着して積層保持をすることが発明の構成要件となつている旨主張する。

1 成立について争いのない甲第二号証、第三号証の一ないし三によれば、願書に添附した本願明細書の特許請求の範囲の記載は前示当事者間に争いのない本願発明の要旨(事実摘示第二、二参照)のとおりであつて、そこに金属スラリーによる誘電性シートの接着、積層保持に関する記載がないことは明らかであり、有機成分を揮発すべく昇温する前にいかに誘電性シートの積層体を形成するかについては、単に粒状金属のスラリーのフイルムを適用した薄い生誘電性シートを重ね合わせることが記載されているにすぎないものである。してみれば、本願発明は、他に特段の事情のない限り、誘電性シートの積層体の形成については、粒状金属のスラリーのフイルムを施した薄い生誘電性シートを重ね合わせて積層体を形成するものであれば足り、該積層体の形成に当たり、金属スラリーによるシートの接着、積層保持の方法を採るか、それとも本願発明の他の構成を害しない他の方法を採るかは、全く任意であるというべきである。

2 そこで、右特段の事情があるかどうかについて検討するに、原告は、本願明細書においては、一貫して金属スラリーによるシートの接着、積層保持の方法を採ることが作用効果も明示して説明されている反面、これ以外の方法については記載も示唆もされていない旨主張する。

確かに、本願明細書の発明の詳細な説明中には、「フイルム12は液体ベヒクルのスラリー又は懸濁液の形で適用されたから、そのフイルムはシート14をシート10に接着する。この接着は、これにより種々の要素の位置が取扱い中保持されるから、コンデンサ積層体又は集合体を引き続き処理する際特に望ましい。」、「電極66及び68をつくる金属スラリー又は懸濁液は特に、次の電極及びシートを適用しながら隣接する誘電性シート70を接着させるのに有用である。」と記載されているが、右はいずれも、「本発明の好ましい態様のみを説明」するとして、本願発明の具体的実施例について説明した部分に現れるものにすぎず、従前技術との対比において本願発明が積層体の保持について金属スラリーの接着性を利用する点において新規であることを示唆するような記載はなんら存しないものである。しかも、右実施例の説明において開示されているように金属スラリーによつてシートを接着、積層保持することが、粒状金属のスラリーのフイルムを施された薄い生誘電性シートを重ね合わせて積層体を形成する際に、当業者が採り得べき唯一の方法であることを示す記載もない。成立について争いのない甲第五号証(第一引用例)には、そのような場合に、加熱を伴い又は伴わないで加圧して積層体を形成できることが示されており、また、成立について争いのない乙第一号証の一、二、弁論の全趣旨によれば、ジグや粘着性のバインダを用いることも周知の技術であつたものであり、これら各種の方法が粒状金属のスラリーのフイルムを施した薄い生誘電性シートを重ね合わせて積層体を形成する上で採り得ない方法であるとする理由は見出すことができない。

してみれば、本願発明において、粒状金属のスラリーのフイルムを適用した薄い生誘電性のシートを重ね合わせて積層体を形成していることをもつて、そこに当然該金属スラリーによつてシートを接着、積層保持することが要件として含まれていることにならないのは明らかであり、また、本願明細書に使用された用語としても、特許請求の範囲中に金属スラリーによつてシートを接着、積層保持する概念を取り込んでいるものと解釈できる余地もないものというべきである。

3 したがつて、本願発明においては、金属スラリーによつて誘電性シートを接着して積層保持をすることが要件となつている旨の原告の主張は失当であり、これを前提に審決は本願発明と第一引用例記載のものとの間の相違点を看過した旨をいう原告の取消事由に関する主張は全て理由がないことに帰する。

三 その他審決にこれを取り消すべき違法の点を見出すことはできないから、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

誘電体層と金属薄片を圧力、温度をかけて交互に結合させ積層体とする積層コンデンサーの製造方法において、

有機結合剤と結晶化しうるガラスフリツトとを含む生状態の複数個の薄い誘電性シートを作り、

該生誘電性シートの少くとも二つに、予定した位置で粒状金属のスラリーのフイルムを適用し、

積層体においてフイルムを適用した該生誘電性シートを、該フイルムのそれぞれが該生誘電性シートの一つによつて隣のフイルムと隔てられかつ積層体の最初の二つのフイルムが互いに部分的に重なり合うように配置し、一つ置きのフイルムが実質的に互いに一致するようにし、該フイルムがコンデンサー電極を構成し、

このようにして作つた積層体に一つの誘電性シートをその覆いとして配置し、

該積層体を昇温して有機成分を揮発させ、

昇温したまゝで該積層体に圧力をかけて該ガラスを緻密化及び融着し、隣接する部材を互いに密封しそれにより実質的に単一体ユニツトを作り、

該ユニツトを、ガラスを結晶化してガラス―セラミツクとするように熱処理し、

圧力及び温度を除いて、その後

必要に応じて該ユニツトの端部を除去して該電極の重なり合わない端部を露出させそれによつてコンデンサーに電気的結合をつくる

ことを特徴とする、積層コンデンサーの製造方法。

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